少年は何故2人なのか?
タイトルにもある通り、今回は…
<少年は何故2人なのか?>
について、主に長野まゆみ作品を取り上げて書いていきたいと思います。
元々このテーマは、河出書房新社出版「天球儀文庫」の巻末に掲載された 中村えつこ氏による解説から引用しているのですが、長野まゆみ作品において" 2人の少年 " が主人公である物語というのは、実は沢山あるんです。
デビュー作である「少年アリス」のアリスと蜜蜂
初期作品の代表格でもある「天体議会」の水蓮と銅貨
SF巨編「テレヴィジョン・シティ」のアナナスとイーイー
著者オリジナルの造語が煌めく「夜間飛行」のミシエルとプラチナ
寒い季節にぴったりの「月の船でゆく」のジャスとティコ
先に取り上げた「天球儀文庫」のアビと宵里
背筋がすっと冷たくなる夏の物語「カンパネルラ」の柊一と夏織
腐乱臭と茹だるような暑さに包まれる「夏至南風」の鈷藍と碧夏
※他にも、「野ばら」「夏至祭」「魚たちの離宮」「夜啼く鳥は夢を見た」「螺子式少年」など "3人の少年 "が主人公の作品や、「銀木犀」のように " 1人の少年 "が主人公の作品もありますので併せて是非ご一読下さい。
さて。
それでは本題の<少年は何故2人なのか?>という話に戻ります。
遡ること6年前...長野まゆみ作品を隅から隅まで、余すところなく、頁のシミに至るまで取りこぼしなく読破した私は、この問いに対してある答えを見出しました。
その答えとは、" 2人の眼を通して描かれる世界にこそ意味があるから " だということです。
何気ない日常、その日常の中に舞い降りた非日常、物語の中で描かれる全ての日々が2人の少年を通して読者に伝わる時、強い共感へと昇華するのではないでしょうか。
解説の中で述べられている<ふたりでなければ見えないもの>とは、出会いと別れを繰り返す中で零れた沢山の感情のことを指すのではないかと、私は思いました。
そして私たち読者は、その儚くも美しく、甘くて苦い感情たちを<少年たちの眼>を通して受け取ることができるのです。
では再び、「天球儀文庫」を例に取り上げてみましょう。
1話~3話を通してアビと宵里のどこか不思議でメルヘンな雰囲気を漂わせた物語が進んでいくのに対し、4話ではより現実的な<離別>をテーマにしたとも言える展開を見せています。
他の作品とこの「天球儀文庫」の大きな違いは、主人公の少年2人が<別れ>を選択したことにあります。それまで少年たちの世界は永遠でした。終わりなんてなくて、小さな冒険やワクワクするようなことがずっと続く、そんな素敵な世界でした。
けれど、<別れ>は必ずしも<終わり>ではないのです。
どこか寂しさを感じさせながらも、彼らが再び巡り合うことを願わずにはいられない…この気持ちは<別れ>を乗り越えた先にあるもので、少年が2人だからこそ生まれる感情なのではないでしょうか。
出会いも別れも、決して1人では叶いません。
日々の暮らしや、そこで生まれた絆、そして来る別れまでを丁寧に、柔らかく、流れるような文章と美しい造語で彩った『長野まゆみ作品』だからこそ、2人の少年によって完成し、完結しているのだと改めて感じさせられました。
また、中村氏は解説の最後に
" 少年はいつもふたり。ふたりでなければ見えないものを見るために。ひとりでは危険すぎる。ひとりが見るものはふたりで見なければ見たことにならない。"
と記しています。まさに先述した通り、少年2人の眼を通して見る世界に意味があるのです。
著者である長野まゆみ先生は宮沢賢治や稲垣足穂に強い影響を受けておられますが、考えてみれば「銀河鉄道の夜」もジョバンニとカムパネルラ<2人の少年>が主人公の物語でした…。彼らに訪れるのもまた<離別>であり、その離別は永遠のものとなってしまいます。ジョバンニとカムパネルラによって語られる" ほんとうのさいわい "とは一体何だったのか、その辺りについても今回のテーマを参考に後々深く考えてみたいと思います。
最後になりますが、
あまり読書について触れていなかったので少しだけ。
今回長野まゆみ作品を取り上げて述べたように、主人公たちのすぐ傍で " 物語の展開 " を追うことが出来るということ、彼らから溢れた" 感情 " を共にすることが出来るということ、これらは全て読書から得られる特権なのだと私は思っています。共感したり、同情したり、逆に「こんなことありえない。」と批判・拒絶したり、読書を通じて得られる感情は無限大です。
今現在【読書の秋】にぴったりの季節ですので、これを機に炬燵に入ってぬくぬくしながらお気に入りの本や、気になっていた本、誰か友達や大切な人から貸してもらった本、積読、雑誌、漫画、エッセイ、詩、とにかく何でも読んでみましょう。
新しい本との出会いは、新しい世界への出会い。
好きだった本の再読は、記憶の懐古です。
そしてもし<少年2人>が主人公の物語を読むことがあったら…
是非とも<少年は何故2人なのか?>について考えて頂ければ幸いです。
それでは、また。
See Ya.